著者の言葉
日本の火山災害史上最も犠牲者が多かった災害は,寛政四年四月朔日(1792年5月21日)暮時に長崎県島原半島にある雲仙岳で山麓の眉山が崩壊して有明海に流れ込んで発生した津波によるもので,長崎県側で約1万人,有明海の対岸熊本県側でも約5千人が亡くなりました。「島原大変肥後迷惑」と広く知られている出来事です。
明治時代末以降の多くの高名な研究者らが,島原半島内の寛政三年冬以降の地震活動,寛政四年正月からの雲仙普賢岳の噴火を研究し,眉山崩壊の原因を,地震あるいは火山噴火,熱水・地下水位の上昇にともなう地滑りに求めましたが,江戸時代のできごとですので,機器観測による科学的データは望めず,決着がついていませんでした。
今回,これまでに調べられていた文書・絵図のほか,未検討の史料も含めて180件余を見なおして整理し,この史料集を作成しました.史料集の中には地震や津波による被害報告や崩壊の模様を有明海の船上から目撃した証言もあります。
整理・検討の結果,島原半島を横断する雲仙活断層群の活動による地殻変動で地下水系が破壊されて,約4500年前に山麓に形成された古い溶岩ドーム眉山(当時は前山)の土台部分の地下水位が上昇,四月朔日(1792年5月21日),大潮の満潮時に局地的な地震をきっかけにして眉山が滑り落ちた,と推定するに至りました。
江戸時代の記録が自然現象を解明するのに役立つ例を多くの方に読んでいただき,雲仙岳の寛政三年・四年の活動を理解し,今後の災害対策に活かしてくださるよう願っています.
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