樽前山噴火史料集

投稿日:2021/06/08

樽前山噴火史料集

著者:津久井雅志

出版年:2021年

著者の言葉

 樽前山は北海道の支笏湖の南東,支笏カルデラ縁上で約9,000年前に活動を開始した火山で,火砕丘および火砕流堆積物で構成されている。山頂部には直径南北 1.2㎞,東西 1.5㎞の大型の火口(山頂火口原)があり,中央火口丘と呼ばれる低い火砕丘が覆っている。中央火口丘の中央には明治四十二年(1909年)に生じた高さ約120mの溶岩ドームが存在する。有史時代の噴火はすべて山頂で起こっており,現在も噴気・地熱が認められる。
 この史料集では,樽前山の有史時代の噴火のうち本格的な地質調査・機器観測が行われる前の,寛文七年(1667年)噴火,元文四年(1739年)噴火,明治七年(1874年)噴火,明治十六年(1883年)噴火を対象とした。噴火や地震,その他関連する現象を記したと思われる文書・絵図等の一次史料を収集し,翻刻と整理を行ない,火山活動と社会の対応全体を理解するよう心がけた。
 今回検討した4噴火は,樽前山の周辺の人間活動の時代的な変化を反映して観察記録の残され方が大きく異なる。寛文七年(1667年)噴火,元文四年(1739年)噴火のころは樽前山近傍に記録者はおらず,みかけ噴出量が2㎦を超える大規模噴火を100㎞以上離れた地点から噴煙を観察し,地震・鳴響を記録するのが精一杯であった。それでも噴火の日時や継続期間を推定する上で非常に重要な情報を書き記している。
 明治七年(1874年)・明治十六年(1883年)の2回の噴火は,樽前山の周辺にも多くの人が移り住んでいたことから,噴火の規模が寛文・元文の2回の噴火とくらべてはるかに小さかったにもかかわらず,直ちに北海道開拓使による調査が行われ,推移を記録した。その結果,小規模の噴火を理解し予測するうえで貴重な情報が得られた。
 この史料集が樽前山の噴火と,関連する現象をより深く理解するため,また,防災・減災のための基礎資料として役立つことがあれば幸いである。

(理学研究院教授・津久井雅志)

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