Sharonさんの話 前半


U Massの図書館について

始める前にUniversity of Massachusetts(U Mass)について説明します。

キャンパスは5つあり、メインキャンパスはアマースト(Amherst)にあります。Amherst Collegeは市立の4年制大学です。札幌農業学校(北大の前身)のクラーク先生がU Massの最初の学長でした。U Massから北大に行ったんですね。同志社大学の新島襄もAmherst Collegeで勉強をされました。

U Massは最初は農業大学でした。それから戦後、1960年代に博士課程を持つ大学に変わり、その時に大きな図書館を建てました。それまで図書館は3回替わり、最初は教会の中の一室、次はもう少し大きなところでしたが、今は28階建ての大きなビルになりました。26階まで図書館で上の2階は空調設備があります。

1階おきに書庫があり、他は個人のキャレル(個室)になっています。図書館の作りとしては良くない作り方です。2、3年前まで本館があって、performing arts、biological sciences、physical science and engineeringの分館がありました。U Massは州立で、州のお金は私立にも行くので予算は多くなく、4館あったのが今は本館と物理・工学の2館しか残っていません。

職員数も5年前までは正職員が160人いました。正職員といっても、アメリカの制度ではlibrary scienceの修士の資格を持っている人(librarian)と持っていない人(staff)の区別があり、給料や待遇がぜんぜん違います。その160人のうち、100人くらいがstaffで60人くらいがlibrarianでした。それが不景気で早期退職をしたのが60人くらい、予算が無くなって仕事がなくなる人もいて困りました。一番少ない時は100人まで減って、今は130人まで増えてきました。人数がぜんぜん足りないと思っているけれど、千葉大学の3倍くらいですね。学生数からいえば、学部学生が17000人、大学院生がたぶん7000人だと思います。Tenure(終身雇用)の先生が、非常に減ったんですが1000人くらい、これからまた250人くらい増やす予定です。

(直前の)木曜、金曜がthanks giving dayと次の日で休みだったのですが、(今度の)月曜から24時間運営が始まります。普通は24/7といいますが、U Massは24/5をやります。日曜の昼から金曜の6時か7時ごろまで運営します。金曜の夜は学生が来ないので開館しても意味が無いです。土曜日は昼間。土曜の夜も誰も来ないから閉館。みんな日曜の昼までぜんぜん学校に来ないので、日曜の昼からまた次の金曜の夜まで開館します。そのためにまた職員を増やして、夜の担当の正職員を3人くらい増やして、それから学生アルバイトを使います。26階建てを管理するのは難しいです。私のオフィスは22階にあります。


U Mass(およびアメリカの大学図書館)のlibrarianの人事制度について

図書館について何か質問は?

(LIC職員)librarianたちはfaculty statusは持っているんですか?

U Massでは私たちはtenureはないけれど、先生たちと同じ組合に入っていますので、faculty statusを持っています。教授と同じ給料をもらっています。

制度というと、専門性によりLibrarian1から5まで段階があります。

Librarian1は図書館に入って1年目。うまくいくとLibrarian2に行きます。Librarian1はまだbaby librarianですからぜんぜん知識が無いから、朝から晩まで与えられた仕事をやる。

Librarian2になるともう少し知識がついて、一人でできるようになっています。だいたい2年間Librarian2をやります。それから応募して、Librarian3までいきます。Librarian3になったら、うんと仕事ができるはずです。目録作業なら一人前で全然レコードの無いところから作りますし、referenceなら先生でも学生でも受付けて間違いなく答えられる。それがLibrarian3です。

Librarian4まではいると、図書館だけの仕事ではなくて外に向けてボランティア活動をする必要があります。というのは、委員会に参加したり会議に出たり、大学の教授会に参加したり、いろいろ図書館のための宣伝をするとか、librarianを生かせる仕事が必要です。キャリアより給料と思っている人は、大体3まで行きます。残業したくないとか、会議に行きたくない人は4までは行かないですね。5になるには、非常に忙しい活動で、会議で発表するとか、論文を書くとか、本を出すとかそういうことが必要です。私はちょうど4です。がんばって5になる申請資料を用意しているところです。5になるためには活動だけではなくて、アメリカにいるspecialistから良い評価をもらう必要がある。Librarianでも先生でも、実力を認めてもらうような評価が必要です。

(図書館員)審査があるんですか?

はい、審査があります。U Massのlibrarianは毎年自己評価をします。まずその年やったこと(仕事の内容や出来事がなぜ図書館の役に立ったのか)を書きます。私はこういうすばらしいlibrarianですということを書いて、それから今年はこういう会議に参加したとか全部書いて、課長に渡します。課長がそれを読んで賛成するかどうか、自分の評価を付け加えます。それから部長に渡して、部長はそれまでの資料を全部読んで評価して、それからインタビューをして賛成するかを書きます。

一方的に上からではなくて、同時に同僚委員会というのがあって、librarian personal committee、同僚から選ばれた人が委員会になってみんなの自己評価を読みます。それが面白い。何にもしない人もいるよね、私は与えられた仕事しかしないとかね。他の人は朝から晩までいろいろやって、かつボランティア活動やってるから、やっぱり広い目で見る必要があるし、時には上司と仲が良くない場合もありますよね、どっちが悪いかは同僚委員会に判断してもらいます。それはなかなか良いアイディアだと思う。先生は教授会で同じように評価があります。アメリカの場合、この評価制度が非常に大事です。

(教員)日本の場合はポストが上に上がる場合は、同僚による評価があります。

ですよね。アメリカの場合は、特に先生の場合は上がるかクビになるかですよね。

(教員)日本の場合、教員は雇用されたときからtenureです。

評価制度があると同時に、私たちは契約制なんです。雇われたときは2年間契約、うまくいけば更新。6年までうまくいけば更新する。うまくいかない、つまり評価が良くない場合はクビになります。6年がうまくいけば、今度は5年間契約に入ります。それからずっと5年間契約になります。クビになるんだったら、あなたはもう要らないからあと2年間はいてもいいけど、もうそろそろ就職してくださいという通知が来ます。めったにこないけどね。5年契約になったら、なかなかクビにならない。Librarianはそういう制度で動いています。Staffはまた違います。

(教員)さっきおっしゃった1から5というのはlibrarianに適用されていることですよね。それぞれどれくらいの%でいるんでしょう?

そういう風になっていない。U Massの場合は新しい図書館ができたとき(70年代)にlibrarianもstaffもうんと減りました。新人が入らないのでくて、私が来て10年で5,6人入ったかな。だからlibrarian1は、ほぼいないですよね、ほとんどみんな3から5までになっています。Librarian5はもしかしたら2割ぐらいかな。とすると、4が4割くらい、あとは3という感じです。館長さんはlibrarianです。アメリカでは当然のことです。たいていいろんな図書館に勤めてきて、成績上げて、図書館での経験が20年間以上の館長です。どこの大学でもそうですね、学者が館長を勤めるのはめったに無いか、あれば非常に伝統が長い大学だと思います。

(図書館員)私も1年目でlibrarian1のクラスなんですけれども、そのための研修とかあるのですか?いろいろと目録、referenceとできるようなるっておっしゃってたんですが・・・

あ、私の説明が足りなかった。日本の制度だとみんな回って仕事しますよね。私たちはそうではないんです。目録で雇われたら仕事やめるまで目録部に入ってしまいます。ずーっと目録、それが好きで雇われたんだから、referenceなら一生referenceやる。

(図書館員)目録部との契約になる?

いや、契約は大学。ただ仕事は目録部という風になっています。大きい大学はね。U Massはまぁまぁ大きい大学。カレッジで小さい大学は、たとえば隣のAmherst Collegeは学生が2500人しかいないくて、図書館の職員が60人から70人くらいです。そういうところだったら、technical servicesにするかpublic serviceにするかどっちかを選びます。

(LIC職員)途中からtechnicalの人がreferenceに行きたい場合は?

席が空いていれば応募する。

(図書館員)応募して、いきなりlibrarian2からやっていったりとか?

いや、地位と仕事はぜんぜん関係ないです。それはありがたいことだと思う。ただ、みんなあんまり仕事を変えないですよ。異動されることは時々あります。例えばU Massの場合、目録をやっている人はみんな20年以上目録をやっています。ただ割と最近入ってきた人が最初は情報リテラシーの担当者で、情報リテラシーが急になくなって彼女の席が電子ジャーナルのほうに回されました。こういう例外は、時々あります。あとはもう一生reference librarianとか。それがいやになったら、別の大学に移るか、席が空くまで待つか。


アメリカの大学図書館の館長について

(図書館員)館長もそうなんですか?館長も目録なら目録をずっとやってきたとか。

館長になりたいと思う人はだいたい仕事をやめて移動します。例えば目録から始める。何年かやって、それから目録の課長を空いている席を探す。それから3年か5年かの経験をためて、今度はtechnical services、発注受入れ、その部の部長の席を探す。それから経験ためて、今度は館長の席が空いているところを探す。そうすると少しずつvisualが広くなる。

(図書館員)経営能力とかもやはり求められるんですか?

昔の館長さんはもう少し学者だったけど、今の館長さんはお金を集めるのが8割を占めるんですよね。お金を集めると、政治ですよね。ほとんど図書館にいないくらいで、あちこちに議会にいったり、政治家と話したり学長と話したり、そういう根回しをするのが今の館長さんの仕事。

館長さんの下に副館長がいますよね、これは日本の部長クラスになるかな、その副館長さんがreferenceから、目録から上がってきた人です。副館長さんが図書館の中を管理する。館長さんが外に向かって仕事する。


staffとlibrarianの違い

(図書館員)staffがlibrarianという道もあるんですか?

それはできないことは無いけど、やはり席が空いているかどうかの問題ですね。Staffがlibrarianになりたがっている場合は、働きながらlibrary schoolに行くか、仕事をやめてlibrary schoolに行くのです。たいていみんな夜とか土曜にlibrary schoolに行っています。アメリカのlibrary schoolはフルタイムでやるなら1年半でできるけど、ぼちぼちやるんだったら3年4年間くらいかかります。オンラインでもできますし、土曜日の学校とかもあります。そこでlibrarianの資格を取ってそれからどうするかの問題です。非常に優れたstaffだったら、館長ができる限り席をつくりますけれど、そうじゃない場合は仕事をやめて他を探す。か、資格を持っていてもそれまでの仕事を続ける人もいます。どうしてかというと、librarianはlibraryをもっと広い目で見なきゃならないです。で、staffは言われたことしかやってはいけない。目録はこうしなさい、ラベルはここに貼りなさいとか、ルールがややこしいでしょう。こういうところはstaffの仕事なんですよ。Staffはそれが当たり前だから、どこの図書館も同じだと思っていたらそれは大間違いです。各大学の図書館のやり方がぜんぜん違いますから、staffからlibrarianになるんだったらよそに行って経験をためたほうがいいという考え方があります。ただ、今のU Massのtechnical servicesの館長がstaffからはじめました。彼女は私と同じくらいだったかな、学生だったし、大学卒業してすぐに雑誌の受入をして、雑誌の目録を作り始めて、それから発注収集の課長になって、それから副館長になりました。だからできなくはないです。で、ILLの課長さんも学生アルバイトからずっとやってきました。

(図書館員)librarianとstaffの仕事の内容はどういうふうに分かれているんですか?

時々同じような仕事になるけれど、主にstaffが日常的な仕事。貸出、雑誌の受け入れ、発注、書架の整理、目録もcopy catalogをしています。Librarianはそれを管理する仕事。例えば予算とかstaffの管理をするとか、reference。Referenceはいつもlibrarianがしています。それから収集選択、本を選ぶのがlibrarianの仕事。目録作業だとoriginal catalogingがlibrarianの仕事です。


librarianの人事制度 追加

(司会)まだsubject librarianの話をしていないですね。

でも基礎がわからないとsubject librarianがわかるはずないですよね。それからもうひとついい忘れたんだけど、教授と同じ組合に入っていますので、librarianはsabbatical、有給休暇をもらいます。今年、6ヶ月もらいました。6年間働いて、有給で6ヶ月もらうか、半給を選んだら1年間の休養をもらえます。そうでないと新しい知識とか論文・・・図書館員は私たち忙しいからなかなか論文書けないですよね。研究ができないから、研究できないlibrarianは大学ではあまりふさわしくないから、やっぱりその有給がどうしても必要だと、向こうでは認められています。

イリノイ大学が本物のtenure制になっていますので、あるlibrarianはreferenceの時間しか出勤していないですよ。あとは自分の研究のために使っています。人数を見ると、イリノイ大学の図書館の人数がU Massより3倍くらい。

(司会)ちょっと記念撮影、休憩を挟んで、subject librarianの話を聞いて、それからdiscussionということにしましょうか。

=== 大階段で記念撮影、休憩 ===


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