日本におけるサブジェクト・ライブラリアンの現状

加藤晃一 (附属図書館亥鼻情報係長)


日本の現状について、参加者している方々と共有してから始めたいと思います。

サブジェクト・ライブラリアンというのは日本ではあまり、言葉として定着していない感がありますが、IFLAが1966年に定義したところによると、「ある特定の主題分野において、図書館の実質的業務あるいはレファレンスサービスを発展させるために任命された図書館スタッフのひとり」ということで、職務的に位置付けられていることになるかと思います。日本ではどちらかというと、シャロンさんとも話していたのですが、この西千葉の図書館のようになんでも対象分野としているジェネラリスト的なことが多いと日本全般的にいえるでしょう。

その中でサブジェクト・ライブラリアンに関する研究もあり、現場の図書館員の方の論文を事前にピックアップして眺めたところ、現在、奈良女子大の係長である呑海沙織さんという方がいらっしゃいます。この方はイギリスの図書館制度について昔から研究フィールドとしてお持ちになっていて、この方が英国の事情を見ながらサブジェクト・ライブラリアンのことについて定義されているところによると、「特定の主題分野における選書や蔵書構築、情報リテラシー教育等を行い、研究者や学生とその関連分野を接点として関わりを持つ図書館員」という位置付けをしています。その同義語として"subject bibliographers" "link librarians" "academic librarians" "information librarians" "liaison librarians" "liaison/specialist librarians"ということで、シャロンさんの在籍しているマサチューセッツ大学では"liaison librarian"という言葉を使っているということです。

日本の状況ですが、特定主題に特化しているサービスを行っている図書館で代表的なところでは、国立国会図書館、都立中央図書館等における主題別のレファレンスサービスが公共図書館では有名です。あとは企業の図書館ですと、それぞれ扱う商品や研究分野によってかなり特化した専門図書館をお持ちですので、そこでは主題に特化したサービスを行っています。我々大学図書館では、主に国立大学で言うと学部や部局の図書館や学科図書室といわれるところがよく挙げられるのですが、ヘルスサイエンス系でいえば医学薬学が挙げられるかと思います。日本医学図書館協会や日本薬学図書館協議会、日本農学図書館協議会といったものが主題に特化した研修会等を行っておりますし、それぞれその分野の図書室やライブラリアンを対象とした団体を立ち上げて、機関誌等で特化した情報提供をしています。法学系でも法律図書館連絡会(=法図連)というものがあり、国立国会図書館が中心となって行っていますが、日本は法律学の研究を母体とした大学が多くあり、例えば早稲田大学や中央大学といったところが熱心に活動されていると聞きます。

それから大学では、金沢工業大学が25年位前に、ライブラリアンではなく研究者をそれぞれレファレンスライブラリアンということで、サブジェクト・ライブラリアンの制度を試みたことがあり、図書館が主体となるのではなくて、教員が図書館内で主題に関するレファレンスサービスを行うということで導入当時話題になりました。最近はあまり話題にはなっていませんが、金沢工大以降、それに習っている大学というのは聞きません。

こういったことから、我々千葉大学としては国立大学についてどういった問題点があるかというと、採用試験の問題があります。基本的にこれまでは国家公務員として必要な一般常識的な問題と、図書館学全般の技術的なことを中心に問う内容、それから最近の学術情報政策に関する問題が多少入ってくるわけですが、特にディープな主題知識などは問われないという現状があります。それから人員配置について、ジェネラリストで対応せざるを得ない、つまりひとつのところに留まることができないということが挙げられます。図書館のことは何でも分かるジェネラリストということに重きを置いていたということもあり、その結果、特定の主題に精通することなく3年程度の人事異動で動いていることが多いということですね。特定の医科大学ですとか、部局の図書館で異動しないで残ったという方以外は、サブジェクト・ライブラリアン的な立場になる環境がないという現状があります。そういった人たちが大学図書館でのスキルアップをどうしているかというと、国立大学図書館協会や国公私立大学図書館協力委員会、文部科学省による研修会もありますが、ジェネラルな基本知識を学ぶところが多いので、個人の研鑚によるスキルアップが多いのではないかと思われます。最近では大学で学びなおす、日本ではリカレント教育と言っていますが、社会人として現場の経験を積んでから改めて大学院に社会人入学といったことも、図書館情報学の分野でも最近は図書館情報大学(現筑波大学)や慶應義塾大学で始めています。あとは各協議会等の研修会ですね。大学によっては大学の経費で参加させてくれるものもありますが、ポケットマネーで参加される方も多くいます。また「こういったことを勉強しよう」という人が集まったプライベートな集まりというのもあるかと思います。

それで、サブジェクト・ライブラリアンが実現できるかということも含め、千葉大学としてこれからどうしていこうかということで、こういった場を持ったわけです。


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