#各講演の資料はPDFから閲覧できます。
コーディネーター:瀧口正樹(千葉大学附属図書館亥鼻分館長)
- 機関リポジトリの最新動向と国立情報学研究所の支援活動
尾城孝一(国立情報学研究所)[PDF]
- 学会出版とオープンアクセス
太田暉人(日本化学会)[PDF]
- 科学技術コミュニケーション:学会と電子ジャーナル
小倉克之(千葉大学工学部)[PDF]
- 大学における学術情報基盤とリポジトリ:研究成果発信の立場から
星野忠次(千葉大学大学院薬学研究院)[PDF]
パネル討議第1部では、各パネラーの講演後、大学、研究者、学会をとりまく学術コミュニケーションの変革について、ディスカッションが行われました。
話は、大学が発信する機関リポジトリの品質、学会との関わり、電子ジャーナルの購読にまで及び、活発なやりとりが交わされました。
[講演後の質問]
尾城課長講演後
- 瀧口)
- mitizaneやJuNiiなどの名前の由来は?
- 阿蘓品)
- mitizaneはサーバ名。千葉大では歌人の名前を付けています。
- 尾城)
- JuNiiは、日本の大学情報のポータルであるということで、Japanese UniversityにNIIをつけたのだと思います。
小倉先生講演後
- 瀧口)
- 論文ごとに利用料を支払うことについて、どうお考えですか?
- 小倉)
- 雑誌は気楽に目を通すことで、いろいろなものが得られる。
そして発想が芽生えて、新しい研究が芽生える。
その始めのところをお金に換算されると、研究者として、教育者としてまずいかと思います。
[ディスカッション]
「機関リポジトリの品質確保」
- 瀧口)
-
太田さんから問題提起いただいた「オープンアクセス・機関リポジトリはinnovation-oriented(革新思考)なシステムであるか?」ということについて、
流通する情報の品質確保が問題になります。リポジトリにはレフェリー制がないため、誹謗中傷さえ出かねない。
審査制度は、リポジトリでどのようにあるべきでしょうか。
- 星野)
-
メーリングリストが発展すれば、ガセネタを出すとこの人は嘘を言っていると世界中の人に分かるので、
リポジトリもそこまで発展させれば大丈夫ですが、その前の段階については考えていませんでした。
- 瀧口)
-
専門家の間では、とんでもないことを繰り返していると分かります。
ところが一般人には10年20年たっても分からないことがあり、その間とんでもない情報をつかまされている人は、迷惑する可能性もある。
学術情報の、雑誌に代わる一時的な発信のサイトと考えるには、何らかのレフェリー制度を導入することも必要かという印象も持ちましたが・・・。
- 太田)
-
品質の確保というのは、使う側がどれだけ信頼して使えるかということで重要です。
ただ、著者からのpeer-reviewを通らない情報だということを承知の上で出すというなら、出しても良い。
だからといって、peer-reviewがいらないとか、どんどん公開すれば良いということにはならないのではないでしょうか。
使う側の責任でもあります。
- 瀧口)
-
尾城さんはリポジトリを作り広げようという立場ですが、出回る情報については発信者に全てお任せで良いかということは、どうお考えですか?
- 尾城)
-
ひとつは、リポジトリに蓄積されるコンテンツの質の保証をどうするかという問題があります。
多分、現存する機関リポジトリのほとんどには、雑誌の査読にあたるシステムは組み込まれていないと思います。
もちろんリポジトリの中に、雑誌の査読にあたるpeer-reviewの仕組みを組み込むことは可能だと思いますが、
大学等の評価の確立した学術機関に所属している研究者が生産した情報であること自体が、緩やかな質の保証になっているのかと思います。
もう一点、学術雑誌と機関リポジトリの関係ですが、機関リポジトリは学術雑誌に取って代わるものではないというのが、私の考えです。
おそらく学術雑誌が担っている査読という機能は、雑誌に残る。
リポジトリの方は、情報の流通や、保存の機能といった、これまで雑誌が担ってきたいくつかの役割を代替することはありうるけれど、
丸ごと機関リポジトリが雑誌に取って代わるということは、少なくとも近い将来は考えられないのではないか。
うまく相互補完的な関係が続くことを、当面は目指していった方が良いのではないかと思います。
こうした相補的なシステムでは、従来の学術雑誌が質の保証の役割を担うわけです。
- 小倉)
-
阿蘓品さんによると、千葉大のリポジトリの内容は紀要がかなりの部分を占めていました。
紀要は論文といった新しい事実を発表するところと総説的なところがあって、紀要に載るということは、
学部なりの責任において出されている研究成果と取ることがでます。
受け取る側が、それを紀要だからと今までも評価していました。
リポジトリでも「これはこういうものですよ」と明確化しておく必要があるかという気がします。
権威があるというのは、逆にいえば二次情報があるということかもしれない。
大学として紀要的な感覚としての情報発信も可能かなという気がします。
- 瀧口)
-
リポジトリの内容や信憑性について、フロアから何かあるでしょうか。
- 永井: 日本動物学会)
-
(遅れて話を聞いていなかったので、討論を聞いての意見です。)
学協会側としてはリポジトリができたことで、ライブラリアンの方にどんどんデポジットしてください、
どんどん進めてくださいとは言いにくいことは確かです。
しかし、ますますジャーナルのpeer-reviewの意味が大きくなって、学協会の責任は重くなると私は思います。
リポジトリの内容を心配することよりも、現実にもっとたくさんのわけのわからない情報が流れているということのほうが意味は大きく、
つまり受け手が何をチョイスするかということの方が大きいと思います。
それよりもリポジトリをしたことで何に意味があるのかということを、図書館も研究者も学会も考えた方が、より正しい道にいけるのではないでしょうか。
それから化学会の太田さんのプレゼンを拝見して、化学会は日本の学会の中でも早くから様々なビジネスモデルを考え、
物理学会と共にいろいろな分野をリードしていることは確かですが、物理・化学・生物でも学問のあり方が全く違うので、
太田さんのプレゼンはたくさんある学協会の一つの意見として伺いました。
「オンラインジャーナルの負担のあり方」
- 瀧口)
-
小倉さんはオンラインジャーナルの負担のあり方は、税金、あるいは図書館、研究者、読者などあるが、どの辺が落としどころだと考えますか?
- 小倉)
-
難しい質問です。我々が便利なのは自由に必要なときに、いろいろな分野に関係なくアクセスできて、検索機能が発達していることです。
先ほどもいったように、分野の違ったところを垣間見ることで自分が勉強する。
だから必要なところだけをお金をはらって読むとすると非常にしんどくなってしまい、
そこのところの優雅さというか研究者としての幅の広さというのが、なにかギクシャクしてしまうのではないかと思います。
- 太田)
-
一件いくらということ、例えば200円、というのは確かにない方が良いのかもしれない。
例えばいま1年間の購読料が100万円のオンラインジャーナルを図書館がとって、何件アクセスしているか。
結局タダではなくてとんでもないお金を取られている。
例えば200円で、コピー代がアメリカだと1ドルくらいするわけで、2枚とればそれで200円。
みんなが共通で広く負担すれば、それだけ安く利用できます。
タイトル単位でこのタイトルは契約していないから見られませんといった状態は、変えなくてはいけないでしょう。
タイトル単位で買うのは明らかに時代遅れだと思います。
多分、先ほど言われた生物でも状況は変わらないと思います。
生物の研究をするのに生物の論文だけ読めば良いかというと、他のいろいろな情報が必要になる。
それは図書館がそのタイトルをとっていないというのでは具合が悪いでしょう。
確かに一点いくらでは困るよというのはあるかもしれない、でも実は一点がとんでもない額になっているというのは認識していただきたい。
- 小倉)
-
ある意味で、個人負担ではなくて、図書館という一つの団体、そういった中で対応していくべきことではないかと思います。
- 瀧口)
-
しばらくはいろいろなモデルが出て、図書館、著者研究者、読者が雑誌によって違うけれど、負担をして落ち着くところに落ち着くでしょうね。
「機関リポジトリのソフトウェアに対するNIIの関わり」
- 瀧口)
-
フロアで是非一言という方がありましたら、どうぞ。
- 高木: アジア経済研究所)
-
ひとつは、NIIとして日本語版の機関リポジトリのソフトウェアを提供されることがあるでしょうか。
もう一点は、もしそれがないとすれば、私どもはD-SpaceかE-Printsを検討することになります。
Juniiのメタデータの組み込みについてよくわからないのですが、サポートはあるのでしょうか?
- 尾城)
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まず、NIIでD-Space、E-Printsに代わるソフトウェアを開発してオープンソースのような形で配布するかどうかという点につきましては、
今のところ具体的な計画はありません。
今後、図書館あるいは国内の研究機関等からの要求があれば検討していきたいと考えています。
その際、ソフトウェアを開発して配った方が良いのか、ASPような形でサーバ貸しをする方が良いのかについても考える必要があると思います。
2点目につきましては、メタデータハーベスティングに関わる質問かと思いますが、
ハーベスティングの技術的な部分についてはもちろんNIIでもサポートしていきたいと考えています。
- 瀧口)
-
あとは直接休み時間に聞いていただくなどすることにして、一部はこれで終わります。